歌を口ずさみながら歩いていた。 もう空も白んだ明け方。いつもの通り道。 風景は何も変わらない。 道端の猫。酔っぱらいのおじさん。たむろする若者。なぜか眩しく感じるコンビニ。 いつもの風景。 だけど、どこかキラキラして見えた。 なんだか清々しい気持ちでいつもの道を歩いていた。
むかしむかしとても可愛らしいお姫様が――― 「あーーーーーーー!!!!!」 「どうなさいました!?」 「か、鍵なくした…。」 「なんですって!?大変だ!!」 ―――とても可愛らしいですが、とてもおっちょこちょいでガサツなお姫様がいました。 「なぜ失くしたんですか!!ずっと首にかけて肌身離さないよう、あれほど申し上げたのに!」...
思い浮かんだことを書こうとして、ピタリとペンを止めた。 顔を上げ、深く息をつく。 だめだ。これ以上書いたらどんどん沈む。 ペンを置いて、大きく伸びをした。 目頭がキュンと熱くなる。 あくびのせいで涙で視界が滲む。 それも僅かな時間で、すぐに視界は鮮明になる。 涙がこぼれて頬を伝うことはない。 ――いつから、泣かなくなったのだろう…。...
駅の裏路地。 そこを行く当てもなく、ふらふらと歩いている一人の女性がいた。 「…私、なんでこんなことしてるんだっけ。」 ふと女性はポツリとつぶやく。 「あぁ…そうだ。私、ついかっとなって飛び出してちゃったんだっけ…。」 そうつぶやき、彼女は数十分前の出来事を思い返していた。 ―――ガチャッ 玄関のドアが開く音がした。彼が帰宅したのだ。...
「うわっ舞衣大丈夫ー?」 その声に振り返ると、山のような資料を抱えて教室に入ってきた君が目に入った。 「あははー。大丈夫大丈夫!」 そう言いながら君はヘラヘラと笑う。 君はよたよたと歩きながら、自分の席まで行き、その資料の山を机の上にドンと置いた。 「えっ…それどうしたの?」 最初に声をかけた彼女が駆け寄り、君に問いかけた。...
あるストリートシンガーを通して、通りすがりの誰かが希望とか元気とか勇気とかをもらう話。
君と寄り添って窓辺に座る。 目の前に広がるのは空っぽになった部屋。 使い慣れた家具も、ダンボールも何も無い。 ただ、私と君のふたりきり。 「…もう、出なきゃいけないね。」 ぽつりとつぶやいた。 別に悲しくはない。だけど、ずっと生活してきたこの場所を出ていくのは名残惜しく感じる。 それに気づいてか、君はふっと笑った。...
「そういえばさ、お前の誕生日っていつなの。」 彼が言った。 知り合ってから5年近くたつのに私は未だに誕生日を秘密と言っている。 「ひみt」 「それはなし。」 いいかけたところで遮られた。 「いいかげん教えて。妻の誕生日も祝えないとか嫌だぞ。」 うぅ…そう言われると断れない…。 渋い顔をしてうつむきつつ彼の顔を覗き見る。...
白い空間。 一人の女の子が頭を抱え泣き叫んでいた。 そこに、誰かが黒い物体を差し出した。 拳銃だった。 彼女はぽかんと見つめ受け取ると、笑顔でそれを構え銃口を自らのこめかみに向けた。 さっきまで泣いていた彼女が満面の笑みでその引き金を引いた。 その時、銃口が向きを変え、銃弾は彼女の目の前を放たれていった。...