歌を口ずさみながら歩いていた。 もう空も白んだ明け方。いつもの通り道。 風景は何も変わらない。 道端の猫。酔っぱらいのおじさん。たむろする若者。なぜか眩しく感じるコンビニ。 いつもの風景。 だけど、どこかキラキラして見えた。 なんだか清々しい気持ちでいつもの道を歩いていた。
むかしむかしとても可愛らしいお姫様が――― 「あーーーーーーー!!!!!」 「どうなさいました!?」 「か、鍵なくした…。」 「なんですって!?大変だ!!」 ―――とても可愛らしいですが、とてもおっちょこちょいでガサツなお姫様がいました。 「なぜ失くしたんですか!!ずっと首にかけて肌身離さないよう、あれほど申し上げたのに!」...
思い浮かんだことを書こうとして、ピタリとペンを止めた。 顔を上げ、深く息をつく。 だめだ。これ以上書いたらどんどん沈む。 ペンを置いて、大きく伸びをした。 目頭がキュンと熱くなる。 あくびのせいで涙で視界が滲む。 それも僅かな時間で、すぐに視界は鮮明になる。 涙がこぼれて頬を伝うことはない。 ――いつから、泣かなくなったのだろう…。...
「うわっ舞衣大丈夫ー?」 その声に振り返ると、山のような資料を抱えて教室に入ってきた君が目に入った。 「あははー。大丈夫大丈夫!」 そう言いながら君はヘラヘラと笑う。 君はよたよたと歩きながら、自分の席まで行き、その資料の山を机の上にドンと置いた。 「えっ…それどうしたの?」 最初に声をかけた彼女が駆け寄り、君に問いかけた。...
君と寄り添って窓辺に座る。 目の前に広がるのは空っぽになった部屋。 使い慣れた家具も、ダンボールも何も無い。 ただ、私と君のふたりきり。 「…もう、出なきゃいけないね。」 ぽつりとつぶやいた。 別に悲しくはない。だけど、ずっと生活してきたこの場所を出ていくのは名残惜しく感じる。 それに気づいてか、君はふっと笑った。...
「そういえばさ、お前の誕生日っていつなの。」 彼が言った。 知り合ってから5年近くたつのに私は未だに誕生日を秘密と言っている。 「ひみt」 「それはなし。」 いいかけたところで遮られた。 「いいかげん教えて。妻の誕生日も祝えないとか嫌だぞ。」 うぅ…そう言われると断れない…。 渋い顔をしてうつむきつつ彼の顔を覗き見る。...
白い空間。 一人の女の子が頭を抱え泣き叫んでいた。 そこに、誰かが黒い物体を差し出した。 拳銃だった。 彼女はぽかんと見つめ受け取ると、笑顔でそれを構え銃口を自らのこめかみに向けた。 さっきまで泣いていた彼女が満面の笑みでその引き金を引いた。 その時、銃口が向きを変え、銃弾は彼女の目の前を放たれていった。...
「かわいいよねぇ…」 目の前にいた友人が言った。 「んー?誰がー?」 「お前。」 「え゛。」 驚くくらいの即答で答えられて、思わず嫌そうな反応をする。 「うん。かわいい。」 「え。何。服が?今までそんなこと言わなかったじゃん。突然どうしたの。」 自分でも不自然だとわかるくらい、動揺してまくし立ててしまっている。 仕方ない。...
「久しぶり。」 「…うん。」 久しぶりに会っても、何も変わってない。 「…」 「…」 そして忘れたはずの気持ちも、変わっていなかったらしい。 「…」 「…」 言うことばなど出てこない。 私は変わらずあなたを好きだったようだ、などと気づいても今更何も言えない。 一体どれだけ傷つけたことか。 それを思えば、何も言えやしない。 「…」 「…」...
とある小学校の遊具を全部作り直す依頼が来た。 だいぶ古くなってきて危ないので、この機会に全部一新するそうだ。 「実際に使うのは子供たちですし、子供たちの意見も聞きましょう。」 部下の提案で、グラウンドに遊びに出ていた子供たちに聞いて回った。 どんな遊具がほしいか、どこにどんな遊具があったら嬉しいか。 だが、所詮は子供。...