目の前に広がるのは空っぽになった部屋。
使い慣れた家具も、ダンボールも何も無い。
ただ、私と君のふたりきり。
「…もう、出なきゃいけないね。」
ぽつりとつぶやいた。
別に悲しくはない。だけど、ずっと生活してきたこの場所を出ていくのは名残惜しく感じる。
それに気づいてか、君はふっと笑った。
「ねえ、ここに来た日のこと覚えてる?」
「え…?」
驚きつつも、空っぽの部屋を見ながら、ここに来た日のことを思い出そうとした。
そう、ここに来た日も、ここは同じように空っぽだった。
知らない土地、知ってる人もいない、新しい場所での漠然とした不安と大きな期待が入り混じっていた。
「これから行く場所でも、新しい出会いがある。素敵なことが待ってる…。楽しみだね。」
君は私の思いを見透かしたようにそう言うと、私の方を向いてにっこりと微笑んだ。
ここで過ごす最後の一日。
どれほどの人と知り合っても、やっぱり君と過ごす最後の日。
そして、これから行く新しい場所も君と――。
end.
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