「そういえばさ、お前の誕生日っていつなの。」
彼が言った。
知り合ってから5年近くたつのに私は未だに誕生日を秘密と言っている。
「ひみt」
「それはなし。」
いいかけたところで遮られた。
「いいかげん教えて。妻の誕生日も祝えないとか嫌だぞ。」
うぅ…そう言われると断れない…。
渋い顔をしてうつむきつつ彼の顔を覗き見る。
「んー………じゃあ、教える。」
「うん。」
彼は真面目な顔でうなずいた。
小さく深呼吸をする。
「…2月29日。」
「2月29日…って、閏年か!」
「そう。だから教えても4年に1回しか祝えないのよ。」
わかっていたことだけど、やっぱり苦々しい思いで言ってしまう。
「4年に1度だろうが、毎年歳をくうのは一緒だろ。それとも、お前は今まで4年に1度しか祝わなかったのか?」
「ぇ…そ、それは…」
思わず顔を赤らめてしまう。我ながらなかなか恥ずかしい祝い方をしていたなと思う。
「…なんだよ?」
「…わ、笑わない?」
「たぶんな。言ってみろよ。」
私は顔を赤らめ、臆しつつも言った。
「…28日にスーパーでも売ってるようなショートケーキ買って、夜中に時計の針が全部12時に重なった一瞬にロウソク消して毎年お祝いしてた…12時を1秒でも過ぎたら3月1日になっちゃうから…」
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
少しの沈黙があってから、彼が思いっきり吹き出して大笑いした。
「わ、笑わないって言ったでしょ!!」
顔がすごく熱い。
「たぶんっていっただろ。それにしても、それを一人でしてるってだいぶ痛いなー!」
彼はなおも笑い続ける。
そんなに笑わなくてもいいのに…と思っていると、ひとしきり笑い終わった彼が一息ついた。
「あー、笑った笑った。」
なんだかニコニコと嬉しそうだ。
「…」
少し、むくれてしまう。
それに気づいてか否か彼は言った。
「じゃあ今年もその一瞬のお祝いしようぜ。針が重なった瞬間におめでとうって言ってやる。」
「…ぇ。痛いっていったじゃん…。」
あっけに取られていると、彼は嬉しそうに言った。
「俺が祝いたいからいいんだよ。」
そして…2月28日。
「電気消すぞー。」
「う、うんっ。」
ロウソクのたった小さなホールケーキの前に二人で並ぶ。
「…3、2、1。おめでとー!」
彼の合図でふーっとロウソクを吹き消す。
彼はすぐに電気をつけにいって私のところに戻ってくると寄り添って私の額に口づけた。
「誕生日おめでとう。」
end.
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