「季子、起きて」
「んー…」
「おはよう」
眠い目を擦り、見上げるとそこには大好きな啓。
「おはよーぅ…」
布団の中からもぞもぞと答える。
「季子、今日で1年だね。」
「うんー。おめでとーだねー。」
「うん、おめでとう。」
なんだか、今日の啓はいつもより少しご機嫌な気がする…と眠気なまこで思う。
「季子、」
「うん?」
「これ、書いてほしいです。」
少し嬉しそうな、でも、真面目な顔で言われた。
よいしょ、と起き上がってその髪を見ると…
「ぇ…啓、これ…」
婚姻届けだった。
「幸せにする。それは付き合い始めも言ってたけど、幸せにできてるか俺にはわからない。だから、もっと幸せにしたい。…書いて、もらえますか?」
いや…1年記念日に結婚って、言ってた気がするけど、でも、まさか、まさか…
「…私でいいの?」
「季子がいいです。」
食いぎみな即答。
そんなの、答えは決まってる。
紙と一緒に渡されたペンを取り、緊張して震えるのを必死におさえながらゆっくり書く。
のんは、その様子を静かに見ていた。
途中で、すでに書かれている啓の欄を見た。
きれいな字で書かれたその名字に、私もなる。
そう思うと、喜びと緊張が一気に増した。
…残るは、捺印。
「はい。」
啓が朱肉を出してくれた。
小さく深呼吸して、印鑑を押す。
ふう、と一気に緊張がとける。
啓と目があって、なんとなくお互いに微笑みあった。
「さてと、じゃあ出しに行こうか。」
嬉しそうに啓が言った。
「急いで準備するね!」
「ゆっくりでいいよ。急がなくても市役所は逃げないから。」
そうは言われても、嬉しくて嬉しくて早く出したい。
ぱっぱと身仕度を整え、玄関のドアを開けた。
…んーなんか音がする…聞き覚えのある…んー…
寝ぼけながら手をのばし、ケータイをとる。
メールだった。
「メールかぁ…いいとこだったのになぁ…」
夢落ちにがっかりしながら、ついでに時間を見る。
「あ、もうお昼かー。夕食づくりがんばらないと。」
もそもそと布団から這い出し、啓との1年祝いの夕食の準備に取りかかった。
end.
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